分離不安症とは、愛着のある人や場所から離れることに不安を感じることの心理学用語です。
生後6か月から3歳までの児童には一般的にみられるものなので、いちがいに病気とは言えません。一般的に、精神障害とされる分離不安障害は、通常の分離不安よりもストレスが強く、一定年齢を過ぎても継続し、なおかつ社会生活が困難な場合を指します。
この分離不安症、じつは犬にもあるのです。飼主が外出して犬が留守番している間に不安な状態が続き、無駄吠えする、食糞する、自傷するなど、留守番が上手くできなくなります。アメリカでは、犬の問題の行動のうち、20%から40%が分離不安症が原因であるという研究もあります。愛犬の分離不安症は、飼い主にとっても難しい問題です。長期的なしつけや訓練が必要な場合もあるからです。そのため、悲しいことに、分離不安症を理由に犬を捨てる人もたくさんいます。
この記事では、あなたとあなたの愛犬が幸せに過ごせるよう、犬の分離不安障害の予防、対策、症状をご紹介します。
犬の分離不安障害の症状
人間の精神疾患と同じで、犬の精神疾患も診断が難しいものです。
分離不安障害の症状や典型的があっても、別の病気の症状だったり、あるいは飼い主によるしつけが不十分なだけの場合もあります。
愛犬があなたと同じ部屋にいたいのは普通のことです。しかし、あなたが仕事中に、大きな声で吠えたり、気を引こうとクッションを噛んで破ったりするのはNGです。
分離不安障害は、愛犬が独りの時に常に極度のストレスを感じている状態です。ストレスを感じると、ドアを引っかいたり噛んだり、ものを乱暴に扱ったり、大声で吠えたり、他の問題行動をとって気を引こうとします。症状が重い場合は、あなたがトイレに入った瞬間に分離不安スイッチが入り、1分間の間に問題行動を起こします。
しかし、分離不安障害であると決めつける前に、退屈しているだけでないか、運動は足りているか、きちんとしつけができているかも考慮してください。
病気の症状として、犬が上記の問題行動をすることもあります。もし、あなたの愛犬があなたのいないときに下の症状を見せたら、専門の獣医さんに相談しましょう。残念ながら、普通の獣医さんでは正しく診断できない場合もあるので、行動学を専門とする獣医さんに相談しましょう。
あなたの愛犬が分離不安障害を患っているかもしれない20のサイン
- 無駄吠えする。
- 同じところを同じスピードで歩き回る(ペーシング)と落ち着きのなさ。
- 息が荒い、唾液の分泌量が多い。
- 落ち着きがなく、ドアを引っかいたり、ドアの下を掘ろうとする。
- 家や部屋から逃げようとする。。
- よだれを垂らす。
- 物を壊す(まくら、クッション、ソファ、家具など)。
- 食糞。
- 噛む(とくにあなたが最近触ったものを)。
- 瞳孔が開いている。
- まどから飛び出そうとする。
- 壁をかじる。
- あなたが帰宅したら、あなたにしつこくついて回る。
- 発汗。
- あなたが鍵をもつなど、出かけるサインを愛犬が見ると、隠れたり泣いたりする。
- 食事をとらない。
- あなたが帰宅したときに過度の興奮する。
- ドアなど、出入り口を破壊しようとする。
- 室内で尿失禁や便失禁をしてしまう。
- 嘔吐。
犬の分離不安障害の原因
犬は社会的な動物です。飼い主と一緒に過ごしたり、他の犬や動物と一緒にいたがるのは普通のことです。それが犬の魅力のひとつでもあります。しかし、これが問題につながる場合もあります。飼い主にとって愛犬は数あるつながりの一つですが、あなたの愛犬にはあなたしかいないのです。
人間の場合、新しい職場、新しい学校などの人生の節目で不安障害になる傾向があります。犬も同じです。
犬の分離不安障害の15の原因
- 飼い主が変わる。
- 新しい環境(新しい家、新しいペット、子供などの新しい家族)。
- 家族の死、病気、離別。
- 飼い主が十分に愛犬と接しない(遊んだり、散歩したり、だっこしたり、犬種によって必要な時間は異なります)。
- 混乱(飼い主が長期出張や長期旅行から帰るなど、愛犬が飼い主がまた長期不在になるかもしれないと感じる出来事)。
- 生活パターンの変化。
- しつけ不足(留守番の経験がない場合など)。
- 幼いころに母犬がいなかったり、母犬が育児放棄をした。
- 恐怖や不安 - 犬は一人でいるとき普段より憶病になるので、雷鳴や、不法侵入などにより分離不安障害を起こすこともあります。特に繊細な犬種で起きがちです。
- アニマルシェルターの犬は、分離不安障害を患っている傾向が強くなります。特に、引き取ったばかりのころはよくあります。
- 他の動物との離別や死別。
- 集団行動の不足。犬は本能的に集団行動する動物なので、属する集団がないとストレスを感じます
- 遺伝性。先天的に分離不安障害にかかりやすい犬もいます。
- バクテリアによる感染症(まだ因果関係ははっきりと証明されていません) 。
- 退屈。とくに若く、元気な犬で、独り遊びが苦手な犬。とくに運動不足の場合にこの傾向がみられます。飼い主が外出中に、テーブルの脚をかむなどして退屈しのぎをする場合もあります。
分離不安障害と間違いやすい病気
分離不安障害とよく似た症状の病気もあります。分離不安障害だと勘違いして、体の病気を無視してしまっては大変なので、きちんと観察しましょう。
よく間違いやすいのが尿失禁です。室内で尿失禁してしまう犬もいます。しかし、これは単純にしつけ不足が原因の場合もあります。
尿失禁の原因は、尿路感染症、老齢に起因する括約筋の衰退、瀉血手術後のホルモン関連の問題、膀胱結石、糖尿病、腎臓病、クッシング病、神経学的な疾患など、心ではなく体の病気が原因の場合もあります。性器の異常が原因の場合もあります。不安症の行動療法をする前に、まずはこれらの病気になっていないことを確認するために獣医さんに相談しましょう。
投薬が原因で分離不安障害と似た行動をとる場合もあります。頻尿や頻便の原因となる薬はたくさんあります。もし、あなたの愛犬が薬を服用している場合は、かかりつけの獣医さんに相談して、薬の副作用を確認してください。
分離不安障害と間違いやすいその他の問題行動
愛犬が本当に分離不安障害を患っているかは判断がつきにくいものです。同じような症状を引き起こす疾患は他にもあります。
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服従または興奮による失禁。挨拶、遊び、身体的接触、叱責、処罰の際に、尿失禁することがあります。これらの犬は、尾を低く保ち、耳を頭に平らにしたり、転がったり、お腹を見せたりするなど、従順な姿勢を示す傾向があります。
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尿によるマーキング。彼らが自分のにおいをマーキングをするために室内で排尿することもあります。犬は壁や他の垂直面に少し排尿して自分のにおいをマーキングします。
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破壊。若い犬は、自宅にいるときも、噛んだり床を掘ろうとしたり、破壊的な行動をとることがあります。
退屈。退屈は犬の天敵です。何かやることをを探すために、歩き回ることもあります。その場合、通常は不安そうに見えません。 -
しつけ不足。室内で排尿する犬は、しつけが足りないだけかもしれません。あるいは、しつけが上手にできず、罰を恐れて飼い主がいるときだけ大人しくしているのかもしれません。また、ご褒美や罰に一貫性がないと、しつけがうまくいきません。
犬の分離不安障害の対策
犬の分離不安障害は、人間と同じで、一日や二日で治るものではありません。長期的な解決策はこの記事の後半で紹介するとして、もし今すぐ愛犬をなだめたい場合は、下の二つをお試しください。
- 大声を出さない。大声を出すと、犬は興奮してもっと吠えます。犬は「どっちのほうが声が大きいゲーム」だと勘違いして、さらに声を荒げます。
- しつけの時に「静かに」と言ってる場合は、「大声出さないで!」「静かにして。」と言っても、犬は静かになりません。訓練のときと同じことを言いましょう。
留守番の犬を静かにする方法
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出かける前に、「静かに」と言います。声を荒げずに、しっかりした声で言ってください。そして、愛犬が吠えるのをやめるまで待ちます。そしてご褒美をあげます。ご褒美をあげたら静かになることもありますが、吠えてるときにご褒美は上げないでください。
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その逆も教えます。愛犬に「吠えろ」と教えるのです。もし「吠えろ」を学んだら、他の指示にも従えるサインです。「吠えろ」の訓練は愛犬が落ち着いているときにしましょう。
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ペット見守りカメラで、愛犬に声をかけたり、静かにするよう伝える。
犬の分離不安障害の解決方法
次は、犬の分離不安障害をどうやって治すか紹介します。まず、罰はいりません。もっと犬に優しい方法があります。 とはいえ、甘い態度をとるのも間違いです。残念ながら、すべての犬に通用する万能薬のようなしつけの方法はありません。そのため、いろいろな方法を試すことが大切です。
犬の不安を防ぐ35の方法
犬の不安を防ぐ方法はたくさんあります。まずは、私たちが実際に試して効果があった方法や、人から聞いた方法を35個紹介します。ぜひいろいろと試してください。
- 出かける前の行動を変え、「条件付け」を変更することで、愛犬があなたが出かけるとわからなくする。
- 帰宅時に、愛犬とはしゃがずに落ち着いて対応する。
- 犬のしつけをする。
- ホワイトノイズや落ち着いた音楽をかける。
- テレビやラジオをつけっぱなしにする。犬向けのチャンネルやサービスもあります。
- 外にいる時間を徐々に増やす。
- 愛犬用のスペースを作る(愛犬専用のスペースを作り、別々のベッドで寝るなど)。
- 部屋を犬が壊せないようにし、そこに愛犬を残し、部屋から出る。部屋に戻ったらご褒美をあげる。部屋から出る時間を長くし、愛犬に独りでいることに慣れさせる。
- 買い物は週末にまとめてやったり、買い物リストを事前に用意するなど、出かける時間を短くする。
- 愛犬が「獲物探し」を楽しめるように、犬用のおやつを部屋に隠す。
- 愛犬が安心できる物(あなたの服やおもちゃなど)を用意する。
- 他のペットを飼い、愛犬の友達にする。
- 罰を与えない。
- 自立訓練。
- 愛犬があなたに四六時中ついてこないように「待て」などを覚えさせる。
- あなたが目を離しているときに愛犬が物を壊したり、自傷行為をしても注意を払いすぎない。問題行動を起こせば、気にしてくれると勘違いする恐れがあります。
- 動くおもちゃを購入する。犬の行動に反応して自動で動く「インタラクティブなおもちゃ」は、留守中も退屈しません。
- 毎日散歩し、別のルートを歩き、他の犬とやり取りする。
- 愛犬の予測・条件付けを変える。家を出るとき、例えばコートを着るときなどに愛犬とちょっと遊んでおくと、コートを着るという行動にたいする愛犬のイメージが良くなる。
- できるだけ多くのコマンドを愛犬に教える。
- アレルギー対応のドッグフードを食べさせる。
- 同じ経験をしたことがある犬友達や獣医さんに相談する。
- ペットシッター、ドッグウォーカー、家族や友人に外出中の愛犬の世話を頼む。
- 外出時に愛犬を連れて行く。
- 長時間あるいは数日間外出する際は、ペットホテルに犬の世話を頼む。
- ケージを利用する。しかし、ケージ自体がストレスになる可能性もあるので、使い方には気を付けてください。
- 毎日少なくとも30分〜1時間の運動や有酸素運動(水泳、走るなど)を犬に与える。
- ドッグトレーナーや犬の行動分析学者に相談する。
- 犬用鎮静フェロモン(Dog Appeasing Pheromon:DAP)、「育児フェロモン」と呼ばれる出産後の母犬から分泌されるフェロモンを人工的に作り出したものを利用する。
- 複数の犬を飼っていて、どの犬が問題行動(クッションを破くなど)をしているかわからない場合は、Petcubeで犬の行動を監視する。
- 自分のスケジュールを変え、外出時間と帰宅時間を15分ほどずらす。たまに仕事のお昼休憩中に帰宅したりするなど、犬にとってストレスになるあなたの習慣を少し「非習慣化」する。
- あなたの新しい靴の代わりに、おもちゃなど、噛むために何かを与える。
- ラジオやテレビをオンにしたまま外出する。
- 外出前に愛犬をしばらく無視する。すると愛犬は無視されることに慣れます。また、帰宅時も同様です。
- 忍耐強くなる。犬のしつけには時間がかかるものです。
ここにある40のすべての手法が失敗した場合、分離不安障害を治療する薬もあります。しかし、人間の抗うつ剤などと同じで、投薬する前に医師に相談することをお勧めします。
残念ながら、分離不安障害は治療するのが難しく、専門のドッグトレーナーの助けが必要になるケースもたくさんあります。しかし、日本ではドッグトレーナーになるのに国家資格は必要ありません。警察犬や盲導犬訓練士でも同様に、各団体・学校などが独自に制定しているのが現状です。そこで、JKC公認訓練所などで犬友達を作って、近所の良いドッグトレーナーを探してみるといいでしょう。
早いうちからしつけを始める
新人の飼い主さんは、やることがたくさんあります。しかし、問題が起きてからの対応に追われて、問題の予防に手が回っていない飼い主さんも多いのではないでしょうか?分離不安は、事後対策よりも予防が大切です。
まずは下の5つを試してみましょう。
- 子犬を独りでいることに慣れさせる。
- ケージに入ることに慣れさせる。
- 外出や帰宅時の犬とのあいさつ控えめなものにする。
- 愛犬に十分な運動をさせる。
- 外出の条件付けを変える。
子犬の分離不安症対策は早期予防が肝心です。早めに予防しておけば、後々だいぶ楽になります。クッションの買い替えなども必要なくなるので、経済的にも予防がおすすめです。
愛犬の問題行動がつらくなったら
愛犬の問題行動は一昼夜で治りません。なるべく短期間で治したいものですが、しつけには時間がかかり、しつけ中も問題行動は継続します。すでに問題行動が起きている場合は、一時的な解決策として以下をお試しください。
- 獣医に不安を解消するための薬について相談する。
- ペットホテル、お預かりトレーニングをしてくれるドッグトレーナーなどに愛犬を預ける。
- 家族、友人、隣人に預ける。
- 可能であれば、愛犬を仕事など外出先に連れていく。
犬の分離不安症対策に効果がないもの
一般的に効果があると信じられているけど、全く効果がないどころか逆効果になるものもあります。下の5つは実行する前にまず本やネットで確認したり、獣医さんと相談してください。
- 罰を与えること。ほとんどのドッグトレーナーは、罰は逆効果であると同意するでしょう。
- もう一匹飼うこと。独りでは寂しかろうと、もう一匹飼っても、分離不安障害の犬がもう一匹増えるだけかもしれません。まずは獣医さんやドッグトレーナーと相談してみましょう。
- ケージに入れること。犬を狭いところに閉じ込めるのはかわいそうなだけでなく、ストレスや問題行動が悪化する恐れもあります。狭いところに閉じ込めると、そこから逃げ出そうと、尿失禁や便失禁、自傷行為、遠吠えする可能性もあります。
- ラジオやテレビは、愛犬がテレビやラジオに関心がない場合は効果がありません。それどころか、ストレスをぶつける対象になりかねません。
- 服従訓練は、一般的には効果的ですが、愛犬の分離不安はしつけ不足によるものではないかもしれません。
もし、分離不安障害を治せなかった場合は
上記の対策を試して、愛犬がまだ問題行動を繰り返したとしても、まずは辛抱強く待ってみてください。
分離不安障害の問題行動の多くは、見た目ほど深刻ではないかもしれません。もし、愛犬が自分自身や誰かを傷つけたりしない場合は、辛抱強く待ってみるのも効果的です。しかし、どうしても待てない場合は、プロに頼るとよいでしょう。